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高校生スザクと小説家ルルーシュのお話。
ちまスザクの過去のお話や、今後の話も書けたらいいなと思ってます!
どうしても忘れられない約束がある。
約束と呼ぶにはあまりにも幼稚で曖昧なものだけれど、ずっとずっと脳裏に焼き付いて忘れることなんてできなかった。
『約束だからな!』
翠色の瞳に涙を一杯に溜めて、彼は小さな小指を突き出してきた。
『大きくなったら、絶対に迎えにくるから…だからっ!』
堪えていた涙が一筋、彼の目からこぼれ落ちた。
ルルーシュはいつものように、その涙を親指で拭ってやった。
『あぁ、約束するから。だから早く大きくなれよ』
泣いているあの子を無下に扱うことは憚られて、軽い気持ちで交わした約束。小指を絡めてゆびきりげんまんをすると、我慢しきれずにルルーシュに抱き着いてきた可愛い子。
言い出したあの子だってきっと大人になった今ではもう忘れたであろうのに、いい年した自分がいつまでもあんな約束をきにかけているなんて情けない。
3月の半ばになったというのに、雪でも降ってきそうな空模様の下をルルーシュは足早に歩いて行く。
13年前、ルルーシュの隣の家から引っ越して行ったあの子。
お金持ちの家の一人息子らしくわがままで礼儀知らずで、そんな子に何故か妙に懐かれてしまいルルーシュは手をやいた。
けれど長いこと一緒にいて情が移ったのか、甘えん坊で泣き虫で純真な彼が可愛くて愛おしくてたまらなくなった。
困ったふりを装いながら、あの子が自分だけに懐いてくれるのが嬉しかった。
あの子がいなくなってから13年間、ルルーシュはふとした瞬間によく考える。
5歳だったあの子は今はどう成長したのだろう。
整った顔付きをしていたから、きっと大人になってかっこよくなっているのだろう。
運動神経が抜群に良かったから何か部活をやっているのかもしれない。
わがままで泣き虫なところは直っただろうか。
忙しい両親だから、大きな家で一人寂しい思いをしていないだろうか。
ピーマンは食べられるようになったのか。
背は伸びたのか、彼女はいるのか。
俺のことを、覚えているだろうか。
立ち止まってそんなことを考えてしまう自分に気づいて、ルルーシュは雑念を振り払うように頭を掻いた。
何を考えているんだ、俺は。
足早に大股に歩きだしたルルーシュに冷たい向かい風が吹き付ける。
マフラーに顔を埋めて寒さで赤くなった鼻を隠す。
こんなこと考えてしまうのはこの寒さのせいだ。
気分転換に散歩になんて出るんじゃなかった。
寒いし、昔は思い出すし家に帰れば締め切り間近の仕事が待っている。
長い長い白い息を吐いてルルーシュは思う。
いい加減、忘れないといけない。
あの約束に捕われているわけではないが、恋人も作らずに一人家で黙々と仕事だけをこなしているのもいけないのかもしれない。
いっそのこと、このさい仕事を休みにしてもらって旅行にでも行ってみようか。
ナナリーとロロも誘って、兄弟3人でどこか遠くに。
色んなものを見て、美味しいものでも食べたらこの暗い気持ちも晴れるだろう。
うん、それがいい。
そうして家への手前の角を曲がりながら旅行の算段をつけていたルルーシュは、家の前に立つ人影に気づく。
原稿を取りに来るはずの担当は明日という約束だし、他に誰か思い当たる人もいない。
不審に思い目を凝らしたルルーシュの白い息がとまる。
少し癖のある、柔らかい栗色の髪。
壁に背を預けて長い足を持て余すようにして、俯きがちのそのシルエットに見覚えはないけれど。
それでもあの髪も漂う雰囲気も知っている。
まさか。いや、でも。
他人の空似かもしれない。
何しろルルーシュが知っているあの子は5歳のままで止まっているのだから。
こっちを向いてくれれば、その瞳の色ですぐにわかるのに。
あの翠を確認できればすぐに確信できるのに。
立ちすくむルルーシュの気持ちが伝わったのか、それとも気配でわかったのか、人影の視線がルルーシュに向けられる。
お互いの瞳がしっかりと絡み合って、不覚にもルルーシュは泣きそうになった。
「ルルーシュ」
まるでスローモーションのように近づいてくる学生服。
目の前で微笑む彼をルルーシュは見上げた。
随分、背が伸びた。
昔はルルーシュの腰あたりしかなかったくせに、今はルルーシュが見上げないとあの翠の瞳は見れない。
声も低くなった。
昔は甲高い声でルルーシュを呼んでいたのに。
「スザ、ク」
喉が張り付いたように声が上手く出ない。
嬉しさと懐かしさとがごちゃまぜになって、言葉がまとまらない。
こんな動揺した姿、こいつには絶対見せたくないのに。
「久しぶり」
何が久しぶりだ。いきなり現れて、13年間何していたんだ。散々世話になったんだから、電話の一つくらいかけろ。
言いたいことはたくさんあるのに、何一つ形にならない。
そのかわりに、ルルーシュの気持ちを代弁するように涙が一粒こぼれ落ちた。
「ルルーシュ、泣いているの?」
「っ…泣いてなんか」
ない、と言おうとしたのにルルーシュの目尻に伸ばされた指先の温かさに、言葉を飲み込んでしまった。
溢れる涙を親指で拭われる。
それは昔、ルルーシュがスザクにしてやっていたこと。
「立場逆転だ」
生意気なことを言う。
それでも、そのままルルーシュの頬を包むように置かれた手が心地よくて、ルルーシュは何も言わずにしておいた。
「俺がいなくて、寂しかった?」
「……そんなことあるわけ」
「俺は、寂しかったよ」
笑っているのに、寂しそうに揺れた翠にルルーシュは胸が痛んだ。
やはりルルーシュが心配していた通りだったのだ。
「ルルーシュがいなくて寂しくて悲しくて……毎日毎日泣いてた」
優しく腕を引かれて、ルルーシュはなすがままにスザクの胸の中におさまる。
「何度も会いに行こうと思った。ルルーシュがいるこの街に行こうって………だけど、我慢した。約束、したから」
『スザク、約束しよう?俺がいなくても良い子でいたら、それでお前が大きくなってそれでも俺のことを覚えていて、今と同じ気持ちだったら』
遠い遠い昔のような気がする。
泣いて駄々をこねるあの子をどうしても泣き止ませたくて使った、約束。
軽い気持ちで深く考えることもなく使ったあの言葉が、ルルーシュ自身をいつの間にかがんじがらめに捕らえてしまった。
そうしてそれはスザクも同じだったなんて。
「ルルーシュ。俺、良い子にしてたよ。今日、高校も卒業して春からは就職も決まってる……大きくなったでしょ?」
ルルーシュを抱きしめる力が痛いくらいに強められる。
「大きくなって、あの頃と少しも気持ちが変わらないから、迎えに来た」
『俺を迎えに来い。そうしたら俺は一生お前の傍にいる。絶対離れたりなんかしないよ。約束する』
涙がとまらなかった。
13年も前のあんな約束をスザクが忘れずにいてくれたことが、こんなにも嬉しくて涙がとまらない。
「あんな昔の約束、律儀に守って…本当に何考えているんだ」
「うん」
「俺が忘れてたらどうするつもりだったんだ?結婚してたり、恋人がいたら」
「うん、でも覚えていてくれた。俺のことまっていてくれたでしょ」
スザクはルルーシュの肩を掴んでルルーシュの顔を覗き込む。
次から次へとこぼれる涙を親指で拭い続けた。
「俺は約束を守ったよ。だから今度はルルーシュが約束を守る番だ」
差し出された小指はあの頃とは違って大きかったけれど。
ルルーシュは13年前と同じように、その小指にしっかりと自分の小指を絡めた。