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初恋シリーズ3
ミレイさんとスザクくん
「スザクくんも人が悪いわよねぇ」
放課後の生徒会室には、ミレイとスザクの二人きり。
ミレイのいきなりの発言に、スザクは訳がわからないといったように首を傾げた。
「一体何の話ですか?」
ミレイの口元が意地悪く弧を描く。
この会長は今度は何を企んでいるのか、スザクは書類整理の手を休めることなくミレイの話に耳を傾ける。
「ルルーシュのこと、スザクくんどうするつもりなの?」
「ルルーシュ?」
突然ミレイが出した幼馴染の名前に、スザクはまたもや訳が分からないという風に首を傾げた。
生徒副会長である彼は、今は会長の代理で各部活の予算会議に出席している。
本来なら会長であるミレイが出席するはずなのだが、彼女はお得意の「会長命令」でその役目をルルーシュに押し付けてしまった。
文句を言いつつも、結局最後にはほっておくこともできずに面倒ごとを処理する幼馴染の人の良さにスザクは目元を和らげた。
ミレイはというと、要領を得ないスザクの様子にシャープペンの頭でスザクの眉間を軽く小突く。
「スザクくんだってわかってるでしょ?ルルーシュのキ・モ・チ!!」
「ルルーシュの気持ち?」
「可愛そうに・・・ルルーシュが毎日毎日あんな熱い視線を送っているのに、スザクくんときたら全く気づいてない振りして受け流してるじゃない?」
「まぁ・・・それは」
「言い訳しない!!」
今度はかなり強めに小突かれてしまった。
「私はね、人様の恋路には首を突っ込まないようにしているの。日本のことわざにもあるじゃない?人の恋路を邪魔する奴は猪に蹴られて死ぬって」
「会長、猪じゃなくて馬です」
「・・・あぁそうだっけ?」
ミレイはごまかすように笑うと、温くなった紅茶をすすって一息着いた。
ミレイのこういうところが、個性派揃いのアッシュフォード学園の生徒会長である所以なのだろうかとスザクは思う。
普段ははちゃめちゃで突拍子もないことを仕出かすが、物事の核心をズバリと突いてくる。
実は生徒会メンバーの中で、常に冷静で細やかな気配りができるのがミレイだということをスザクは分かっていた。
そしてミレイのこんな性格が自然と生徒の人望を集めるのだろう。
小突かれた額を摩りながらスザクは笑う。
「やっぱり、会長はごまかせないか」
「そうよ、さっさと白状しちゃいなさい。ルルーシュのこと、好きなんでしょ?」
「はい、好きです」
あまりにもあっさりと、何の臆面もなくスザクが認めてしまうので逆にミレイの
ほうが面食らってしまった。
ミレイがこの二人の奇妙な関係に気づいたのはいつだったろうか。
幼なじみというにはあまりに親密で、親友というにはどこかぎこちない。
ルルーシュがスザクに対して特別な感情を抱いているということがわかるにはそんなに時間はかからなかった。
というより、わかりやす過ぎた。
ルルーシュは外見は冷静沈着を装っているが、本人が思っている以上に感情が外に出る。
ルルーシュはばれてないつもりだろうが、ルルーシュのスザクへの思いはスザク本人を含めルルーシュの近くにいる人間なら薄々感づいている。
スザクの言動に一喜一憂し、視線は常にスザクを追い掛けている。そんなルルーシュを見て気づ
くなというほうが無理がある。
気づいていないとすれば、リウ゛ァルくらいだろうか。
しかし、そんなわかりやすいルルーシュとは対称的に感情を表に出さないのがス
ザクである。
万人受けする穏やかな笑みを絶やさず、完全なポーカーフェイスで感情を読み取らせない。
そうして、そんなスザクが唯一そのポーカーフェイスを崩す瞬間がある。
ルルーシュが絡むと、スザクの感情は大きく揺れ動く。
例えばルルーシュのちょっとした言葉に照れてしまって言葉が出なかったり、やきもちをやいて拗ねるルルーシュを見つめる甘い視線。
その変化はあまりにも一瞬で、注意しなければ目の錯覚だと思ってしまうようなほんのわずかなものだけれど。
そうしてある日、そんなミレイの疑惑を決定ずける事件が起こった。
生徒会によって予算が削減されたクラブが、ルルーシュのもとに怒鳴り込みに来たのだ。
頭に血が上って、喚き散らす彼らにルルーシュは理路整然とその削減がどうして行われたかを説明していった。
だが、そんなルルーシュの落ち着き払った態度は更に彼らの怒りを増長させた。
彼らは怒りに任せてルルーシュを突き飛ばしたのだ。
体育会系の彼らの腕力に、ルルーシュの華奢な身体は簡単に吹っ飛んだ。
近くでことの成り行きを見守っていたミレイも、さすがにこれには声をあげよう
とした、その時。
『いい加減にしろ』
地を這うような声が生徒会室に響いた。
その一言で騒がしかった生徒会室が水をうったように静かになった。
ミレイはスザクを見た。
そして心臓が大きく一度音を立てた。
突き飛ばされたルルーシュを後ろから抱き留めるように立つスザクの瞳からは、普段の穏やかな光りは消えうせていた。
ルルーシュを突き飛ばした相手を睨み付けるその表情は、その場にいた者たちを黙らせるのには十分な迫力だった。ミレイは息をのんだ。これがあの温和なスザクなのだろうか。
こんなに狂暴で激情に揺れるスザクを今の今まで想像すらしたことはなかった。
スザクに後ろから支えられていてスザクの表情を伺えないルルーシュだけが、状況の変容ぶりについていけずに不思議そうな目をしている。
『予算の削減は正式なルールに基づいて決定されたものです。抗議するなら正当な方法でしてもらわないと、困ります』
ね、会長?
同意を求めるスザクの顔はいつも通り笑っているはずなのに、目だけが笑っていなかった。
スザクの迫力におされる形で、ミレイは会長らしく彼らに一言二言説教をすると彼らはすごすごと生徒会室をあとにした。
彼らが出て行った後も、スザクの怒りは収まらないのか、生徒会室に残された3人はしばらく異様な静けさを保っていた。
そうしてさすがに普段とは違うスザクの様子に気づいたのか、ルルーシュは背後に立つスザクをそっと振り返った。
『スザク?』
その瞬間、剣呑に細められたスザクの瞳はいつもの柔和さを取り戻していた。
『大丈夫だった、ルルーシュ?』
そうしてルルーシュの身体を確かめようとするスザクと、今更ながらにスザクに抱きしめられていることに気づき、あわてふためくルルーシュをミレイは呆気にとられて眺めていた。
スザクのこの豹変ぶりは、さすがのミレイも言葉が出ない。
恥ずかしがって嫌がるルルーシュを腕の中に閉じ込めて無事を確かめようとするスザクは、もういつものスザクだった。
いつもの温厚で優しいスザク。
その姿にミレイはほっと胸を撫で下ろした。
怖かったのだ。
あそこまで純度の高い怒りをミレイは生まれて始めて目の当たりにした。
真っ赤になって俯いたルルーシュを見つめるスザクの穏やかな微笑みを見て、ミレイは確信した。
スザクの人の良い笑顔の下にある激情の正体。
ルルーシュへの執着と独占欲。
それがわかると、二人の関係はものすごく歯痒い。
不器用にスザクを見つめるルルーシュと、自分だってルルーシュしか見てないくせにわからないふりをするスザク。
恋愛は当事者の自由だしスザクにも考えがあってのことだろうと数年間黙認していたミレイだったが、ルルーシュに対して姉のような立場にある上に、元来の世話好きな性格が合間ってとうとうスザクへ直球に疑問をぶつけたのである。
ルルーシュの気持ちがわかっているのにどうして何もしないのか。
スザクが一言好きだと告げれば、ルルーシュの切なさも周りの人間の心配も一気に片が付くというのに。
「そんなにたいした理由はないんですよ。ただ、僕の中にある願望というか……」
ミレイの問いにスザクはそこまで答えると、席を立って奥の給湯室でお湯を沸かしはじめた。
そういえばそろそろ予算会議が終わって、ルルーシュが生徒会室に戻ってくる時間だった。
本当にルルーシュにだけは恐ろしく気を配る男である。
「ルルーシュにこんなこと望むなんて無謀かなとも思ったんですけど、昔からの夢だったし一生に一度だけのことだし、どうしても諦めきれなくて」
給湯室からティーセットを持ってきて、スザクは器用にお茶の準備にかかる。ふわりと広がる茶葉の香り。
これはアッサム、ルルーシュの一番のお気に入り。
「で?その夢って何なの?」
興味津々で問い掛けるミレイ。
ポットの茶葉が開くのを待つスザクは、ルルーシュだけに向けられる甘い微笑みを浮かべながら口を開いた。
「ルルーシュから告白されたいんです」
「………へ?」
返答に窮したのはあまりにも自分の予想とは掛け離れたものだったからだ。
「ルルーシュに告白されるのが、小さい頃からの夢なんです」
大切な秘密を打ち明けるようにスザクははにかむ。
ミレイはというと、今日何度目になるかわからない驚きに言葉を失う。
「それだけ!?それだけのために10年もただの友達を続けてるの?」
「だから言ったじゃないですか。たいした理由なんてないって」
頃合いを見計らったようにスザクは紅茶をカップへと注いでいった。
そうしてミレイはというと、ゆらゆらと上る湯気を見ながら耐え切れずに吹き出してしまう。
散々人を心配させといて、その結果がこれだ。
あまりにもスザクとルルーシュらしくて、おかしくてたまらない。
「やっぱり、人の恋愛に首を突っ込むもんじゃないわね」
ルルーシュを悩ませる恋の病はまだ当分は治りそうにないけれど。
「まぁそれもありでしょ。私は傍観しているから、悩んで成長しなさい、青少年たちよ」
そうして、意地悪な二人の密談は終了した。
何も知らないルルーシュが生徒会室のドアを開けるまで、あと10秒。