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年の差シリーズ3
スザクとルルーシュの昔のお話。
スザクにとって世界で一番大好きな人は、母親でも父親でも友達でもなくて近所に住むお兄さんだった。
両親は仕事で家をずっと空けているからたまに会っても他人のように感じてしまうし、友達はスザクの家柄と腕っ節の強さを恐れてスザクをおだてるだけ。
スザクのことをいつも本当に心配してくれるのも、本気で叱ってくれるのも大切にしてくれるのもルルーシュだけだった。
だから幼稚園から帰ったスザクが一番にすることは荷物を置いて公園に行くこと。
学校からの帰り道にルルーシュは必ず公園を通るから、そこでルルーシュを待つのだ。
高校生のルルーシュは夕方にならないと帰ってこないので、スザクは長い間一人で砂遊びをしたりボールで遊んだりして待たなければならない。
ボールを蹴って木に当たって返ってくる。
転がっては跳ね返る、その繰り返し。
周りを見れば親子連れや友達同士ではしゃぐ子供たちでいっぱいだった。
スザクはボールを力いっぱい蹴り上げる。
ボールは茂みに入っていったけれどスザクは気にせず公園を飛び出した。
寂しくない。もう少ししたらルルーシュが帰ってくる。
スザクはルルーシュがすぐに見つけられるように公園の入口に座り込む。
秋がだいぶ深まった夕方は肌寒く、どこかもの淋しい。
一人、また一人と皆が家路へと消えていく。
真っ赤に染まる滑り台も砂場もブランコも、昼間はあんなに輝いていたのに人がいなければこんなにも悲しい。
さっきまであんなに賑やかだったのに、あっという間に静かになった公園。
スザクは何度も鼻をすんすんと鳴らす。
季節の変わり目で風邪気味なスザクだが、そんなスザクに厚着をさせようとか、薬を飲ませようとかいう細かい気配りをする人間はスザクの家にはいなかった。
そうして、公園の時計が5時の鐘を鳴らした時、スザクの目が人影を捉えた。
すらりとした体格、黒い髪に黒い学生服。
「ルルーシュ!」
叫ぶと同時に駆け出していた。
「おかえり!」
小さな身体全身でルルーシュに抱き着く。
押し付けた鼻にルルーシュの香りがした。
「ただいま、スザク」
いつものようにスザクの上から優しい声が降ってくる。
その声を聞くだけで寒かった心が温かくなる。
一つだった影は二つになって、二人は住宅街を歩いていく。
どこからともなく漂う夕食を準備するにおい。
スザクは繋いだ手をぶんぶんと振って、嬉しそうに今日あったことを喋りだした。
幼稚園でのこと、テレビのことや読んだ本のこと。
スザクが語るスザクの一日に、一言も両親の話題がないことにルルーシュは胸が痛くなる。
こんなに可愛くて愛される資質を持っているのに。
可哀相な子。
自分と同じ、親からの愛を知らない子。
ルルーシュは繋がれた手をそっと離して、スザクを抱き上げる。
抱き上げた小さな身体からはお日様のにおいがした。
「ルルーシュ!俺、もう赤ちゃんじゃない!」
だから下ろせと暴れるスザクをルルーシュは強引に腕の中に閉じ込める。
「だめだ。こんな寒い日にそんな薄着で出て来て。こうしてくっついてたら少しは暖かいから」
スザクの赤くなった頬を軽くつねって、ルルーシュは笑う。
抱き上げたスザクの身体は冷え切っていて、一体何時間外で待っていたのかと心配になるほどだった。
「スザク、いつも言っているけどこうやって俺のことを待ってなくてもいいんだぞ」
雨の日も風の日も、雪の日も台風の日でさえスザクは公園で待っているからルルーシュはこの小さな子が心配なのだ。
天気の悪い日はスザクの家のお手伝いさんに待たないようにと伝えているのだが、毎日毎日スザクは公園でルルーシュを待っていた。
「たまには友達と遊んだり他のこともしたいだろ?」
「したくない」
無表情で冷たく言い放つ。スザクの幼稚園での様子をしらないルルーシュはその一言ど更に不安になる。
もしかしたら幼稚園でいじめられているのではないだろうか。
武道をやっているから喧嘩で負けるとは思わないけれど。
もどかしいとルルーシュは思う。
親じゃないからスザクといつも一緒にいることも、スザクの友達関係にも深く関わることもできない。
スザクの家には住み込みのお手伝いさんがいるけれど、事務的な仕事しかしないからスザクに細やかな配慮はないようだ。
こんこんと、ルルーシュの腕の中で咳込むスザクの背を軽く叩く。
「スザク、今日はうちに泊まるか?」
スザクの顔を覗き込むと、スザクの顔が綻んだ。
「泊まる!」
「じゃ、スザクの家に連絡しとく」
お泊りお泊り、歌うリズムに合わせて足をぷらぷら揺らすスザクをルルーシュは抱え直す。
「ルルーシュ!俺、カレーが食べたい!」
ルルーシュは冷蔵庫の中身を思い出す。牛肉はないけれど確か鶏肉があっはずだった。
スザクのための子ども用のカレーのルーも買ってある。
「わかった。今日はカレーにしよう」
「やったー!」
「ただしちゃんと野菜も残さず食べて、ご飯の後は風邪薬も飲むこと」
「えぇー!」
頬膨らませてそっぽを向いたスザクにルルーシュは甘やかしそうになる心を押し止めて、少し厳しい表情を作る。
「それが約束できなきゃ、お泊りはなし」
「ルルーシュのケチ。いじわる、ばか」
口では可愛くないことを言っていても回された腕は解かれることはない。
ルルーシュはスザクの前に小指を差し出す。
「スザク、約束」
ルルーシュの小指を睨み、唇を尖らせていたスザクは、やがて無言のまま自分の小指を絡めて乱暴に指切りをした。
「偉いぞ、スザクはお兄ちゃんだな」
頭を撫でてやるとスザクの耳が赤くなった。
それが寒さだけではないことをルルーシュは知っていた。
慣れていないのだ。
誰かに心配されることも、褒められることも。
可愛くて可哀相なスザク。自分が可哀相なことも、悲しいこともわかってない。嬉しい気持ちも寂しい気持ちも表すことを知らない。
「なぁ、スザク」
「なぁに?」
見上げてくる大きな瞳はどこまでも真っすぐで純粋で汚れを知らない。
この小さな子を守ってあげなければ。
あらゆる悲しみや、苦しみからこの子が傷ついたりしないように。
「もう一個約束しよう」
「えー」
また嫌なことを約束させられるのかとスザクは顔をしかめる。
そんなスザクにルルーシュは苦笑しながら、もう一度小指を立てる。
「これからは何かあったら必ず俺に言うこと」
スザクはきょとんとしながら首を傾げる。
「いつも話してるよ。さっきだって」
「そうじゃないよ」
スザクが話してくれるのはいつも綺麗なことばかり。
楽しかったことやおもしろかったこと、嬉しかったこと、そんなことだけ。
だけどスザクが感じているのはそんな明るいことばかりじゃないはずだ。
小さな胸では抱えきれないこともたくさんあるはずなのだ。
「悲しかったこととか、腹が立ったこと、寂しかったこととか全部話してほしいんだ。スザクが教えてくれたら俺がスザクの辛いことを消してあげられるだろ?」
いつになく神妙な顔をするスザクにルルーシュの気持ちは伝わっているだろうか。
楽しいことだけじゃなくてつらいことや嫌なことでも受け止めてくれる大人が近くにいること。
心配をかけられてもスザクへの愛情が変わらないこと。
全部全部伝わればいい。
黙ったままどこか信じきれてないようなスザクの小指を強引に絡めとって、ルルーシュはスザクに笑いかけた。